作品概要

・タイトル:それでも夜は明ける
・原題:12 Years a Slave
・公開:2013年
・制作国:アメリカ、イギリス
・監督:スティーヴ・マックイーン
・キャスト:
キウェテル・イジョフォー(Chiwetel Ejiofor)…ソロモン・ノーサップ / プラット役
マイケル・ファスベンダー(Michael Fassbender)…エドウィン・エップス役
ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)…ウィリアム・フォード役
ポール・ダノ(Paul Dano)…ジョン・ティビッツ役
ルピタ・ニョンゴ(Lupita Nyong’o)…パッツィー役
ブラッド・ピット(Brad Pitt)…サミュエル・バス役
・公式HP:映画『それでも夜は明ける』オフィシャル・サイト
今回は、2013年公開(日本公開は2014年)の映画『それでも夜は明ける』の感想を書いていきます。
この作品は、自由黒人であるソロモン・ノーサップが1853年に発表した奴隷体験記 “Twelve Years a Slave“(意味:12年間、奴隷として)を映画化したものです。
あらすじ
1841年、ニューヨーク州サラトガのソロモン・ノーサップ(イジョフォー)は自由黒人のヴァイオリニストだった。彼は妻と子供2人と順風満帆な生活を送っていた。
『それでも夜は明ける』Wikipediaより
ある日、彼は二人組の男たち(スクート・マクネイリーとタラン・キルラム)から金儲けができる周遊公演に参加しないかと誘いを受けた。
ある晩、二人組の男たちにノーサップは薬漬けにされ、昏睡したまま奴隷商に売られることとなった。彼は自分は北部の自由黒人だと主張するが、材木商のウィリアム・フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)に購入される。
当時の時代背景について
まずはこの映画の舞台となる南北戦争以前の1840年代~1850年代のアメリカはどんな時代だったのか改めてまとめてみた。
奴隷制度と南北戦争
当時のアメリカは奴隷制度が無い自由州と、奴隷制度がある奴隷州に分かれていた。
自由州と奴隷州の比率は長い間、均衡が保たれていた。これは奴隷制度反対派と支持派の軋轢を避けるための政策だった。
しかし、1840年代から1850年代にかけ、工業化が進み黒人労働者を大量に必要とする北部に対して、南部でも英国からの綿花需要が拡大し、ますます黒人奴隷に頼る産業構造が出来上がっていた。
西部開拓が進むなか、植民地の人口が増加したことにより、これらの植民地を州に格上げすることとなったとき、これらの新州に奴隷制を認めるか否かで南北の対立が加速した。これが南北戦争の始まりである。
そして1963年、エイブラハム・リンカーンによって奴隷解放宣言が発布された。
リンカーンは憲法を改正して奴隷制廃止を明文化し、黒人は市民権が与えられ奴隷制から解放されたものの、社会的な差別や人種差別主義者からの迫害からは守られることはなく、20世紀半ばを過ぎても多くの黒人の命を奪い続けた。
自由黒人について

この映画の主人公ノーサップは自由黒人(法的に奴隷ではない黒人のこと)であったにも関わらず、誘拐され奴隷になってしまう。
当時のワシントンD.C.は、国内有数の奴隷市場が存在する場所でもあり、奴隷商人たちは、自由黒人を誘拐して奴隷にすることも厭わなかった
『ソロモン・ノーサップ』Wikipediaより
自由黒人にはいくつかの定義がある。
1840年代当時、北部にいるアフリカ系アメリカ人の10%が自由黒人の身分だったらしい。
自由黒人という地位であっても黒人法などにより奴隷のように行動などが規制されていた。
1840年代の出来事
※奴隷に関連する出来事は太字で記しています
| 1840 | ・アメリカ海軍のチャールズ・ウィルクスが南極大陸を発見 ・ニューヨーク、ペンシルベニア、オハイオ、バージニアの4州の人口が100万人を超える |
| 1841 | ・最高裁判所がアミスタッド号事件※において事件を起こしたアフリカ人が自由の身にあると認める |
| 1842 | ・メキシコ軍の約700人の軍隊がテキサス州サンアントニオを一時的に占領する ・2番目の編成となる幌馬車隊が100人以上の開拓者と共にミズーリ州エルムグローブを出発 |
| 1843 | ・エドガー・アラン・ポーが「黄金虫」を発表 ・ハワイ王国がヨーロッパ諸国によって独立国家として公式に認められる |
| 1844 | ・サミュエル・モールスがワシントンからボルチモア間の電信実用化に成功 ・ジェームズ・ポークが第11代大統領に就任(-1849) |
| 1845 | ・テキサス共和国がアメリカ合衆国と合併 |
| 1846 | ・米墨戦争(アメリカ・メキシコ戦争)勃発(-1848) ・カリフォルニア共和国がメキシコからの独立を宣言 |
| 1847 | ・メキシコシティの戦い |
| 1848 | ・カリフォルニアでゴールドラッシュが起きる ・米墨戦争が終結 ・エリザベス・キャディ・スタントンが女性の権利を求める感情宣言を発表 |
| 1849 | ・東海岸と西海岸の間で定期的な蒸気船サービスが開始 |

アミスタッド号事件
1839年にスペイン籍の奴隷輸送船でアフリカ人奴隷が起こした反乱乗っ取り事件と、それに関連してアメリカ合衆国で行われた一連の裁判。この事件は大きく注目を集め、奴隷廃止運動を前進させる結果をもたらした。
1997年にスティーヴン・スピルバーグ監督によって映画化されている。
1850年代の出来事
| 1850 | ・ミラード・フィルモアが第13代大統領に就任(-1953) ・1850年協定が議決されカリフォルニアが奴隷制度のない州として認められる |
| 1851 | ・ハーマン・メルヴィルが「白鯨」を発表 |
| 1852 | ・ストウ夫人が黒人奴隷の半生を描いた「アンクルトムの小屋」※を発表 |
| 1853 | ・マシュー・C・ペリー提督とアメリカ海軍が日本の江戸湾に到着 ・米国で初となる万国博覧会が開催される |
| 1854 | ・カンザス・ネブラスカ法が法制化 ・血を流すカンザス※勃発(-1861) |
| 1855 | ・最初の鉄道列車がアイオワ州ダベンポートに向けて出発 |
| 1856 | ・奴隷制支持勢力が2つの奴隷制反対新聞と他の事業を破壊 |
| 1857 | ・ドレッド・スコット対サンフォード裁判※ |
| 1858 | ・血を流すカンザスの抗争がピークに達する |
| 1859 | ・奴隷制度廃止運動家のジョン・ブラウンが反逆罪で絞首刑になる |

©Senate.gov; Library of Congress; Govtrack.us; PBS.org; Wikipedia Commons.

アンクルトムの小屋
コネチカット生まれの女教師だった作家ハリエット・ビーチャー・ストウ(ストウ夫人とも呼ばれた)が1852年に発表した小説。聖書に次いで19世紀で最も売れた本とされ、奴隷制度廃止論者の後押しのみならず、南北戦争にも影響を与えたとも言われている。有名なエピソードとしては、1862年にエイブラハム・リンカーンがストウ夫人に会った際に”so you are the little woman who wrote the book that started this great war.”(「あなたのような小さなご婦人が、この大きな戦争を引き起こした本を書かれたのですね」)と言ったとされている。
血を流すカンザス
1854年から1861年までカンザス準州及び隣接するミズーリ州で起きた奴隷制度支持派と奴隷制度反対派間の暴力的衝突のこと。同年のカンザス・ネブラスカ法がきっかけとされている。
ドレッド・スコット対サンフォード裁判
解放を求めて告訴した黒人奴隷のドレッド・スコットに対し、アフリカ人の子孫が奴隷であるか否かに拘らず、アメリカ合衆国の市民にはなれないとし、アメリカ合衆国議会は連邦の領土内で奴隷制を禁じる権限がないとした裁判。南北戦争の引き金になった事件と考えられている。
感想
※この記事はネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。
ノーサップの変化について
今回まず驚いたのが、この映画を観るまで知らなかった自由黒人という存在。
そしてもう一つの驚きが自由黒人でも誘拐されて奴隷にされていたという事実。アメリカでもこの話はあまり知られていないらしい。
自由黒人だったノーサップが奴隷にされて次第に変化していく様子がこの映画の見どころの一つでもある。
奴隷にされて間もない頃のノーサップには自由黒人という誇りとプライドが残っているのが言動や表情に現れているが、次第に生気の無い絶望的な表情に変わっていく。
最初は如何にして奴隷から抜け出すかを考えているが、途中からは奴隷として如何に自分の身を守るかということを考えている。
言動の変化だけでなく心の変化までも表情だけで演じていたのは見事としか言いようがない。
白人の描き方について

奴隷映画では、黒人を奴隷にしている白人が概ね悪役として出てくることが多いが、この映画には善人とも悪人とも言えない白人が出てくる。
例えばノーサップの最初の主人であるフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は、作業中にノーサップの意見を取り入れたりバイオリンを贈ったり木に吊るされたノーサップを助けてくれるが、トラブル回避と借金のかたとして無情にもノーサップを売り飛ばす。※
次の主人であるエップス(マイケル・ファスベンダー)は、典型的な南部の白人至上主義者であり奴隷たちを残酷に扱う。しかし、エップスもまた南部の奴隷制度に翻弄された不幸な人間だった。白人至上主義者でありながらも若い奴隷女性パッツィを愛してしまい、嫉妬した妻からも精神的に追い詰められる。どれだけ奴隷に酷いことをしようが満たされることは無く、むしろ惨いことをすればするほど精神が崩壊していく様が印象的だった。
※映画ではフォードがエップスにノーサップを売ったことになっているが、史実ではエップスではなくティビッツに売ったとされている。ノーサップを売った後も、ティビッツに追われているノーサップを4日間も家に匿っており、原作でもフォードは奴隷のことをよく考える良い所有者だったと記述されている。
参考:『ソロモン・ノーサップ』Wikipediaより
出演者の演技について
主人公のノーサップ/ソロモンを演じたキウェテル・イジョフォーを始めとした出演者の演技力が本当に素晴らしく、途中で映画だということを忘れて見入ってしまった。
エップスを演じたマイケル・ファスベンダーは、S.マックイーン監督の過去の映画にも主役として出演し、その演技力は高く評価されている。(『ハンガー』『SHAME -シェイム』)
今回は奴隷を虐げながらもどんどん追い詰められていく難しい役を見事に演じていた。
印象に残ったシーン

個人的に印象に残ったシーンが3つある。
1つ目は、ノーサップが木に吊るされている周りで他の奴隷たちが普通に日常を送っているシーン。
とても異様で不気味だった。
2つ目は、亡くなった奴隷仲間を埋葬した後に奴隷たちが歌うシーン。
どうしてこんなにソウルフルでファンキーなんだろう。
3つ目は、ブラピ演じるバスに手紙の投函を依頼した後にノーサップの顔だけがずっと映るシーン。
その間1分20秒、台詞は一切無い。
しかし、ノーサップの表情だけで色んな事が読み取れる。これまでの過酷な奴隷生活のこと、手紙が運良く届いて解放された後のこと、手紙が届かずに奴隷として一生を終えるかもしれないこと。
傍観者だった自分も、いつの間にかノーサップと同じ時間を共有し、同じ期待と不安を抱いていていることに気がつく。
最後に
重いテーマの映画を観るたびに「わざわざこれを観る意味はあるのだろうか?」と考えることも少なくは無い。
この映画もそんな理由で今まで観ることを何となく避けていた。
でも今回、ブログを書くためにこの映画を観て、奴隷制度とその背景にあった南北戦争前後のアメリカの歴史をあらためて知るきっかけになったことは大きな価値があったと思う。
今後あの時代の映画を観る時には、きっと前よりも新しい発見があるだろう。
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